NVCミディエーター養成にかける熱い思い
「調停」あるいは「仲裁」などと訳される「ミディエーション」は、まだまだ聞きなれない言葉です。特に一般の人にとって「調停」は、裁判用語としてならともかく、日常生活での「調停」となると「???」。私たちNVC実践者にとっても、「NVCミディエーターとなってミディエーションを自ら行うことは、あまり現実的でないのでは?」と思えます。
でも、NVCトレーナーの後藤剛さん&ゆうこさんは、「いまこそ、ミディエーションが必要!」とNVCミディエーター(調停者)養成のための、基礎講座を精力的に開催しています。いったい、そのココロは……? お二人のミディエーションにかける情熱、また、ミディエーターの学びにはどんな意義があるのか、また今の社会でミディエーターになるとはどういう意味があるのか等々を聞きました。(聞き手:栗山のぞみ)
※「ミディエーションとは何か」、また、NVCミディエーションの練習方法「フライシミュレーター」に関しては、こちらの記事を参照してください。
【内容ダイジェスト】
- ミディエーションのトレーニングは、NVCの学びの段階に関わらず学びを加速する。
- 自分の中にミディエーター席をつくることは、NVC意識を生きること。
- ミディエーターは“痛み”をその奥にあるニーズに翻訳する。
- 対立を恐れずにパワーウィズを実現できるようになる。
- 進化・深化しつつある剛&ゆうこのミディエーションスキル。
- 対立の奥の“癒されない痛み”を見つけケアする。
- いずれ、ミディエーターのコミュニティをつくって社会に貢献したい!
誰でもNVCの学びを加速させたい人にはミディエーションの基本スキルが役に立つ
−「ミディエーションのスキルを身につけよう!」と言われても、NVCを学び初めたばかりだと「対立している人たちの間に入って仲裁するなんて、私はできません」と尻込みしてしまう人もいそう。どのぐらいNVCを身につけてから、ミディエーションを学んだらいいのかな? また、二人がNVCミディエーションを学んで欲しいと願うのはどんな人?
剛:NVCを経験していることは必須条件ではあるけれども、今、学びのどの段階であっても、NVCの学びを加速させたい人なら、誰にでもミディエーションのトレーニングはオススメだと思っているよ。
この学びが特に役立つ人を具体的に挙げるとすると、例えば企業の中間管理職をはじめ職場で人間関係を仲裁する立場の人とか、生徒たちの喧嘩の間に入る学校の先生とかかな。もちろん、家族やカップルなど親しい人との関係性をよりよくしたいと願っている人は誰でも!どちらかがミディエーションの意識を持つと、よりよいつながりの質をつくるのに、必ず役立つと思う。
ゆうこ:知り合いのカップルや友人同士がちょっとした行き違いをこじらせているのを見聞きして、助けてあげたいと思うことはないかしら? 子どもの兄弟喧嘩に疲れ果ててどうしてよいかわからなくなっているお父さん、お母さんもいるはず。当面は、身近な2者の対話をサポートするスキルを身につけたいと願っている人に、参加してもらいたいと思っています。
実際のところ、ミディエーションが必要な場面はたくさんあると思うの。正式にミディエーターとして招かれて、当事者を前に「では、NVCミディエーションを始めます」という形式でなくても、PTAの会合とか町内会などにミディエーション意識を持っている人がいたら、その場にいる全員への貢献になると思います。
自分の中に“ミディエーター席”を持つ
−ミディエーションのトレーニングが「NVCの学びを加速させる」ということについて、もう少し話してもらえる?
剛:ミディエーションのトレーニングでは対立している2者の間に立つので、そのためのスキルを学んでいく。それはそのまま、自分自身の中に第三者の視点、あるいは第三の椅子、つまりミディエーター席を持つことにつながるんだ。
客観的な視点から、自分自身のニーズを聞き、また相手の痛みの訴えを相手のニーズに翻訳する。また、「今、対話のテーブルに何のトピックが上がっているのか」を明確に意識する。さらには、双方の表現のバランスはどうかなどに心を配る。もちろん、自分が自分とつながっているかどうかを常に意識しながら。これらはすべて、NVCを生きる基本だよね。
ゆうこ:振り返ってみると、ミディエーションをしっかりと勉強するまで、対話の中で“マイクを渡しあう”ということが実感できていなかったと思います。自分と相手という2者の対話で、特に自分にとって痛みを伴うトピックを扱うとき、相手をじゅうぶんに聞いて、次は自分が話す、そしてまた相手……と順番に話すことは誰にとっても難しいですよね。
ミディエーションのスキルを身につけると、対話のナビゲーションができるようになります。私も今では自然と「あなたのプロセスが完了したようなので、ここからは私が話すね」とか、「私は話し終わったから、どうぞ」というスイッチが入るようになりました。これは、対話を信頼してもらうことにもつながっていくと思うの。
“判断”、“評価”の表現をニーズに翻訳する
—二人が学んできたミディエーションのスキルで、「これだ!」と思っているものを紹介してくれる?
剛:いろいろあるけれど、ジム&ジョリから学んだことを一つ挙げたい。それは「“判断”、“ジャッジ”を決して橋渡ししない」ということ。ミディエーターは、A、B両者の間に立ってそれぞれに相手の言っていることをリフレクションしてもらうように橋渡しするけれど、Aさんが話してBさんがリフレクションする番になったとき、「Aさんはこう考えています」ではなくて、Aさんの“考え”の背後にあるニーズにつながってから手渡す。その重要性に改めて気づいたよ。
ゆうこ:例えば「女性とは嘘をつくものだ」という価値判断の発言があったとするでしょう? その判断の起点というか、過去にそういう痛みを感じる経験があったことがその人にはあるかもしれない。その痛みへの癒しを必要としているのなら、ミディエーターとしてそこまで一緒に降りていきます。私たちがミディエーターとして関わるときは、可能であれば、敵イメージの元となった出来事を溶かす、あるいは、トラウマに対するインナーパーツレスキュー等をその場ですることもありますよ。そうでなくても、「痛みがとても強いので癒しを必要としています」とリフレクションしてもらう、とか。
剛:そういう意味では、ミディエーターは翻訳家。トランスレートする役。僕たちのオンライン講座でもそのことを意識しながら、毎回NVCミディエーターの役割、ミディエーターとして大切にしたいことをテーマに学んでいくよ。
対立を恐れずパワーウィズを実現
−最近ますます、NVCを学ぶ人が増えてるよね。そうした人たちが、ミディエーションのスキルを身につけるとどんなことが起こりそう?
ゆうこ:あらゆるコミュニティ、つまり、カップル、家族、職場、学校……などで、徐々に「対立してもミディエーションで解決できる」という信頼をつくることにつながるんじゃないかしら。
というのも、パワーウィズの関係で何かプロジェクト等を行おうとするとき、それぞれがニーズにつながって発言すると一時的に対立が起こることがあるじゃない? 対立を解く方法を知らなかったり、対立を修復した経験がないために、諍いを避けたり、遠慮したりして新しいアイディアが出せなかったり、自分の力を抑えてしまったりするのは、もったいないと思うの。
コミュニティの中でミディエーションを学び、練習を重ねると、たとえ誰か特定の人がミディエーター役にならなくても、誰もが第三者の目でお互いのニーズを見つめ、橋渡ししながら聞き合うことができるようになるはず。
もちろん、具体的な対立が起こったときに、コミュニティの中にミディエーターの役割を立ててリストラティブな仕組みを作ることもできるので、コミュニティが安定することにも役立ちます。
剛:「NVCで双方に共感しましょう」といきなり介入するのは、ストリートファイター的な介入。チャレンジの気持ちは素晴らしいけれど、ほんとうに“つながりの質”に貢献したいのなら、その前に基本の“フォーマット”を身につけることをオススメしたいな。
ゆうこ:そうそう。実際の生活では、インフォーマルなミディエーションが求められる場の方がずっと多い。NVCミディエーションの“型”を知って、じゅうぶん練習していれば、インフォーマルな場で活かすこともできるようになると思うの。
“対立”を“深いつながり”に変容する
−2015年の秋に二人がNVCトレーナー夫妻、ジム&ジョリ・マンスキーさんを招いて行った「ミディエーション合宿」から2年余り。この間に二人は認定トレーナーになったし、ミディエーターとしてもたくさん実績を積んできたよね? いくつか例を挙げてもらえるかしら?
剛:日本に帰国したとき、何回か東京や大阪で基礎的なワークショップを提供してきたよ。参加者の皆さん同士でも練習できる“フライトシュミレーター”も紹介し、それを元に自主的な練習会をやっている人たちもいると聞いている。少しずつ根付いているようで、うれしいな。
それと、ミディエーターとしての経験では、例えばカップルなど親密なパートナーや家族との関係、また、職場でのコミュニケーションをよりよくしたいと考えているマネージャーの方から相談を受けたりして、日本だけでなく、マウイでもミディエーションを行ってきた。
ゆうこ:ミディエーターとしての大きな進化は、対立の奥にある深いレイヤーで何が起こっているのかに着目すること、また何層にもなっているレイヤーを識別できるようになったこと。これは、ジム&ジョリからミディエーションを学び続けるのと同時に、同じくNVCトレーナーのサラ・ペイトンさんの元で対人神経生物学を学んだことが大きいと思うの。つまり、目の前の対立だけでなく、その背後にどんな神経系の反応、あるいは愛着のパターンがあるのかを見つけ、そこに癒しの必要があれば癒しのサポートを、深層でのワークが必要ならそれを提供しています。
剛:対立があるとき、当事者の神経系では潜在記憶が痛みを増幅することがある。つまり過去の記憶が海馬で統合されていないために、相手が実際には言ってないにもかかわらず過去に痛みを感じさせられたセリフが潜在記憶から掘り出され、そう言っているかのように聞こえてしまうことがあるんだよ。
ゆうこ:対立を修復していく過程に、たいていは、現在の対立と過去の痛みが出会う場があるの。そこでは、ミディエーションだけでなく、例えばファミリーコンステレーション等、痛みにアプローチするワークを組み合わせると、ほんとうの意味での深いつながりを取り戻すことができます。当事者が二人とも神経系や愛着理論の知識を学び、二人が二人として統合し、お互いをサポートし合える関係性に進んで行くのを何度も見てきたわ。私たちが行っているのは、このような包括的なワークです。
剛:実は僕たちも夫婦として関係性を築く中で、それ(神経系の反応や愛着)が壁となって現れ、サラのワークに出会って乗り越えてきたんだ。このプロセスを他のカップルにも提供しています。
—ミディエーションを広めた先の、もう少し具体的な夢はある?
剛:例えば、アメリカではミディエーターという職業が認知されていて、政府がサポートする裁判所とは別の調停機関がある。この先のチャレンジとして、学びを継続することでNVC意識を体現する人たちのコミュニティをつくり、みんなで大きな対立に関われるようになったら……と思っているよ。
ゆうこ:実際日本の社会にも、ミディエーションが必要な場はたくさんあると思うの。いろんな社会問題、たとえばヘイトスピーチの問題、環境問題、医療問題などに詳しい人も加わってもらって、みんなで双方のニーズを深く聞いてつながりに貢献することができたらステキだな……。
—大きなゴールがあるのを聞いてワクワクが湧いてきたよ! 身近な関係でお互いのニーズを聴き合うこと、つながりの質の向上に貢献することから、社会に貢献する道筋までも見えて来た……ぜひ、みんなで学んでいきたいなぁ。
ゆうこ&剛:うん、ぜひ、みんなにも加わってもらいたいです!
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